2018.12.26 Wednesday

浮腫と水疱

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    たまには、納棺の実務のことでも。

     

    リンパ関連のことがらについて。

     

    納棺師であれば、むくみ、浮腫(ふしゅ)というのは当然見たことがあるだろう。

     

    無くなる前の療養の状態とか、病気の内容などによって個人差はあり、死後もむくみが全く見当たらない人というから、無くなる直前に一気に身体全体が膨れあがってしまった、という方もいる。

     

    むくみが更に悪化するとそれは、水疱、水ぶくれとなって表皮の下に大きな水たまりを作る。

     

    水疱の処置はどこでも単純だ。処置後に再発しないように、まず切り開いて中の水分を吸い取り、給水パッドやフィルムなどを巻いて固定する。注意点があるとすれば、水疱のできやすい部位を知っておくことぐらいか。

     

    水疱は主に、背中や太ももの裏など、地面に接して圧迫されている部位の、周囲にできる。だから脇腹とか内股などが頻発箇所だ。重度のむくみのある方で、ぱっと見手先や胸元に異常が無いからと言って、安心してはいけない。上体を起こしたり、抱えたり、横起こしにしたりする前に、必ず脇腹等々をチェックしなければならない。

     

    水疱の中身やむくみの水分の正体が何であるか、それも知っておいた方が良い。独特の匂いのある淡黄色の液体は、広い意味で言うところのリンパ液だ。狭い意味で言えば細胞間質液と、リンパ液の混ざったもの、ということになる。

     

    基本的に人間の体細胞は、一定の水分バランスを自動で保つようになっている。動脈を通して余計な水分や養分が供給されると、水分は静脈に、養分はリンパ管にそれぞれあふれ出て行く。

     

    そのあふれる量がさらに限界を超えると、静脈やリンパ管といった”下水路”が決壊して、水分や養分、それから老廃物が細胞の中に留まったり、細胞の隙間や体表面などに流れ出てしまう。

     

    動脈から静脈に至る血液の循環を意識してはいても、リンパ系の循環、リンパ管とリンパ節の部位や繋がり方を意識していないという人は、納棺師の中にも案外いるかもしれない。

     

    処置が終わり、ご家族とのご面会という際には、お顔やお手元、お足元のむくみはできるだけ見えない場所に隠して差し上げたいものである。

     

    リンパ系の流れを理解していれば、例えば脇の凍結しているご遺体のお手元のむくみがどこまでならマッサージで移動できるか、お顔のむくみを解くためにまず身体のどの部分からマッサージしていかなければいけないか、そういう見通しも立つだろう。

     

    (あとついでに、関係ない話だがリンパマッサージを覚えたら自分の顔のむくみや頭痛とかをケアしたりもできる)

     

    もっとも私の経験上では、マッサージでご遺体のむくみを解消できるパターンはあまり多くはないと思う。点滴で全身が腫れ上がっている場合は、水分を逃がす先が無いのだから難しい。高齢の方で、リンパ管に沿った顕著なリンパ浮腫などの場合は、案外きれいにお手元を整えられることなどもあり、難しいがその辺の見極めが大事かもしれない。

     

     

     

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    JUGEMテーマ:葬儀

     

     

    2018.09.14 Friday

    次の現場に間に合いません

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      納棺のこと。個人的に、日本の納棺業界は、構造的に大きな問題を抱えていると思っている。

       

      単純な問題。仕事の形骸化。

       

      納棺業は、人によっては「究極のサービス業」と例えるほど、専門化された知識と高い精神性を要求されるものである。

       

      その業界に集まる人々も、基本的にはそうした重大な仕事を通して人の役に立ちたい、自分の労働に確かな意味を感じたいという人が多い。

       

      が、実際に納棺業界に足を踏み入れてどうか。

       

      あえて答えは聞くまい。

       

      日本において、この納棺という風習が仕事/サービスとして確立されたのはついここ数十年のことであろう。地域ごとの宗教的意味合いを含んだ納棺文化は、特定の人々の生業に置き換わり、資本主義社会の中で経済化され、あっという間に「会社のビジネス」に成り代わった。

       

      急速に経済化される中で、納棺の風習が失ってしまった文化的意味合いはあまりにも大きいように感じる。社長の「営業施策」を実行する「サラリーマン」としての職人たちの眼は、パソコンのエクセルファイル上の施工件数と、売り上げ予算の達成率を追うことに忙しい。

       

      その姿勢と態度はまだ純粋な「職人」でいられる末端の新人納棺師たちの価値観の上に、滴り落ち、侵蝕する。

       

      数年すると世の中の多くの納棺師は、ご遺体の身の整い方やご遺族の満足・安心よりも、むしろ「自分の仕事がどれだけ早く終わったか」ばかりを誇るようになる。

       

      何故か。単純な話なのだ。「会社」はそこしか見ないからである。

       

      そもそもの成果指標が「予定どおりの件数をこなせたか、クレームがなかったか」という程度の貧弱なものであるため、社員の仕事の目標意識はその成果指標に引きつけられて自動的に拙速な方向へと導かれていく。

       

      ビジネスでありがちな「貧弱な成果指標が社員の成長を歪める」問題について、良く知られる解決策は多面的な評価制度を構築することである。

       

      (その昔ある環境保護団体が自分たちの活動を「実施地域の面積」のみで計測していたところ、面積は順調に広がって喜んでいたのに、気付いたら「実施地域における環境破壊レベル」が実はどんどん深刻化していて、大反省した、という笑い話のような恐ろしい話がある)

       

      だが、期待できるのだろうか? 施工件数、売り上げの金額、前年対比の達成度、そういった経済事情こそ最重点課題とする、西洋化されたあまりにも優秀なビジネスパーソンたちに、例えば納棺の「精神的な」評価尺度など作れるのか。

       

      納棺とは、なんぞ。

       

      自然で健全な「あらゆる人間活動の経済化」の流れに逆らって、そういうものに答えられる職業意識の高い納棺師、納棺業の経営者たちが、もっと増えていきはしないか、という奇跡のような絵空事を、この意味の消えた世界で夢のように呟くばかりである。

       

       

       

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      2018.09.12 Wednesday

      垢が消えない・・・

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        納棺実務。ご遺体の手足のアカについて。

         

        特に湯灌などしていると、手足の指の間からボロボロとアカが落ちてきて、止まらなくなることがあるのがわかると思う。

         

        石けんを付けて何度も洗い直せばいずれは全て取れるかも知れないが、時間もかかりすぎるし、湯灌の流れがもたつく。ご遺族の前でしているのであれば心象も良くない。

         

        結論を言うと、石けんや清拭剤などを使っても、垢がきれいに落ちきることはない。では何をすれば良いか。油か保湿剤を塗るのだ。

         

        ご遺体の垢は厳密に言うと生前のそれとは違う。何故ならアカとは、古い角質からなる死細胞の塊のことだから。だとしたら、既に亡くなられて血液循環の停止したご遺体そのものが、広い意味で言えば「死細胞」ではないか。それをどこまで除去すれば良い? 死細胞を全て除去したらご遺体そのものがすり減ってしまう。

         

        そこで納棺師が目指すべきことは、肉体からの細胞の分離や剥落(はがれ)を防ぐことであると思う。ご遺体の皮膚表面は乾燥している。細胞が浮き上がり、薄皮がはがれて至る所でフィルム状にはがれかけている。或いは手足の油分が多い場所で、脂質を含んだ粘土状の塊になって、水をはじく。

         

        ベビーオイルや保湿剤がこうした問題を解決してくれる。皮膚をある程度定着させながら、余分な脂質の塊を拭き取れるようにする。特に役立つのはクリーム状の保湿剤で、私はこれを良く使用した( カロンクリーム…? ニベアでもいいですよ… )。

         

        リキッド状のものではなくクリームを選ぶのは、乾燥して浮き上がってきた角質を皮膚に定着させる力が強いからだ。最後に除去するほどでもない肌の弱った部分をケアすることで、見た目の仕上がりも良い。垢が出ているということは臭いも多少あるので、場合により消臭スプレーなども忘れずに。

         

        ご宗派にもよるが、旅支度がある場合は…特に手足のケアには気を付けたい。ご遺族が故人の手を握る時になって、その手がアカまみれだったらどうするのか。その瞬間、「死」は「むごたらしいもの」になってしまう。ご遺族は不気味な昆虫でも前にしたようにおよび腰になり、故人の魂が旅立たれていくその大切な時間に最早心から寄り添うことはできない。

         

        旅支度の際になって、ご家族が故人のおみ足を確かめられた瞬間に、安心したようにこんな風に言われる。良くあることである。

         

        「あら、肌がずいぶんキレイ。入院中はスネのあたりがガサガサで、それがかゆいって言って。私も何度もマッサージしたり、クリームを塗ってあげたりしたのよ」

         

        納棺師よ、保湿剤を塗るのだ。アルコールや水は乾燥する際にご遺体を痛める。必要なのは、油分である。

         

         

         

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        2018.09.03 Monday

        涙が止まらない

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          もし納棺師の方がこのページを見ているとしたら、質問させていただきたい。

           

          『 涙腺(るいせん)はどこにありますか? 』

           

          涙腺は、みなさんの心の中にあります。はい、違います。

           

          言うまでもなく涙腺というのは、涙液(なみだ)が分泌される器官のこと。

           

          別にですね、これを聞いて答えられたら良い納棺師、わからなかったら悪い納棺師ってわけではないです。経験豊富な優れた納棺師であっても、涙腺の場所なんて知らんという人はたくさん居るでしょうね。

           

          ただまあ、こういうのは知っておいて対処能力が下がるということはありません。現場で明確な論理立った対処を行えるし、不安な状態にあるお客様を少しでも安心させる上でも知識というのは役に立ちます。

           

          それで涙腺の位置についてですが。

           

          手っ取り早く答えを知りたい方はgoogleで画像検索してみてください(画像検索って便利だ)。

           

          涙腺は、そう、主に目尻の上の方にあります。良く目の下のいわゆる「涙袋」とか、目頭の穴を涙腺だと思っている人がいますが、それはちょっと違います。

           

          涙腺は目尻の上(他の部分にも多少あるけど)、ここで涙が作られます。実は涙というのは、私たちが「泣いている」と呼ぶ状態にならなくとも常に眼球の上を流れ続けて、眼球の表面を乾燥などから保護しているものです。

           

          常に流れ続けている涙を私たちが「流さずに」済むのはちゃんと理由があって、そこから眼球の下部に溜まった涙は、目頭の上下に開いた穴、「涙点(るいてん)」を通って、鼻涙管(びるいかん)という細い管に入り、最後は鼻の中に放出されます。

           

          通常こうやって鼻の中に排出され続けている涙が、あんまりにも大量に出てくると鼻への放出が間に合わなくなり、まぶたの外へ流れていく、ついでにその時は鼻涙管を通ってくる涙も大量なので、それが鼻水になってダラダラ垂れてくるということです。

           

          基本的構造はこうですが、死後処置において気にかけるべきポイントはどこでしょうか。

           

          涙が問題になるのは、腐敗ガスが発生している場合が主だと思います。ご遺体が涙を流す。それが止まらない。膨らんでしまったお顔のご様子と相まって、ご家族には大変な不安と悲しさを感じさせることでしょう。

           

          この場合、涙はどこから出てくるのでしょうか。涙腺からですか、それとも鼻の中からこみ上げてくる別の液体でしょうか。

           

          実は私も、はっきりしたことは良くわかりません。ですが構造的に考えると、鼻涙管の鼻側の出口はかなり顔の表面の側に近いですから、しっかりと鼻に詰め物をした上でそれが鼻涙管の中まで逆流してくるというのは考えにくいのではないかと思います。

           

          となると、可能性としては涙腺の中から、腐敗ガスに圧迫されて押し出されてくるのではないでしょうか。

           

          そうした状況に対する対処は、恐らく非常に難しいものになるでしょう。強い圧力で接着面からにじみ出てくる液体を抑えられる薬剤は余程特殊なものになるでしょうし(普通の接着剤などでは無理)、まぶたを凍らせる訳にもいきません。涙液の成分は浸透圧でそこら中の細胞からしみ出してくる性質のものなので、入り口を抑えることもできません。

           

          こういう「手詰まり」な場合、言うまでもないでしょうが、大切なのはご家族にしっかりと今後の予想などを伝えて、それが生理的に避けられないものなのだと落ち着いて受け入れていただくことでしょう。

           

          そういう局面になればこそやはり、人体等についての正確な知識を持っていることは、非常に大切なことだと思うのです。

           

           

           

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          2018.08.20 Monday

          「こんなに痩せちゃったんだね」と言わせない納棺師

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            納棺実務。着付けの小技。

             

            洋装であれ和装であれ、ご遺体に服を着付ける時に気にすべきところが二つ。

             

            一つは、お腹。実務で納棺をしている人間なら当然知っているだろうし今更になるとは思うが、長い入院や介護の生活を通して、年配の方の腹部は極端にへこみ、ウエストが細くなってしまう。

             

            そのままの状態で着物を着付ければ、腰紐を結んだ時に絞りあげるような形になり、痛々しい。洋装のワンピースやスーツであっても同様で、腹部がぺこりと凹んでウエストがぶかぶかになっている姿は、それを見たご家族に悲しみを与える。

             

            対応は単純で、着物や下着をお着せする前に、綿や布をお腹のくぼみに当て、肋骨と同じ高さになるよう補正しておく。基本的なことではあるが、手順を急ぐあまり忘れることのないようにしたい。

             

            もうひとつのポイントは、えり元。例えば私たちがジャケットを着ている時に、頭を下げて地面を見るような格好になったとしよう。すると、背中、うなじの側で、ジャケットと首の間にある程度の隙間ができるのがわかるだろう。

             

            ご遺体の「お頭を上げる」ということは、つまりこの姿勢を取っていただくということである。必ずえり元に余裕ができ、それが前面にまわれば、ぱっと見てわかるような着物やスーツの「着崩れ」になる。

             

            この場合の対応も、同じように綿などで服との隙間を調整することになろう。首の後ろ、見えない位置、Yシャツやジャケット或いは着物のえりと地肌との間に、ある程度の厚みにまとめた布などを差し込む。えりのたるみは背中側に引き込まれるので正確な寸法は崩れはするのだが、それでもお召し物の前面がピンとはっている方が見た目に美しい。

             

            経験のある納棺師からすれば、こんなことはみな現場で当然のように行っていることではあろうから、あえて書くことではなかったかもしれない。

             

            であればこの記事は、厳密に専門納棺師ではなくとも自分たちの手で納棺を行うこともある、葬儀の施行担当の方々の参考にでもなるならば、幸いというものだ。

             

             

             

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            2018.08.08 Wednesday

            腕が凍ってるんですけど

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              ドライアイスの温度って、何度ぐらいか知ってますか。

               

              -80℃ですよ。そりゃあもう、何でも凍らせてしまうわけです。

               

              ご遺体の温度を低く保つうえでは、このドライアイスは頼もしい道具なんです。が、運が悪ければどうしても凍ってしまうんですよねぇ・・・腕。

               

              一口に納棺と言っても、やり方は沢山あって。着替えをするかどうか。そのまま上に白装束をかぶせるだけってところもあるし、浴衣を脱がせずに浴衣の上から白装束を着せることも、浴衣を脱がせてからってこともあるんですが・・・何にしろ困るわけですよね。腕が凍ってたら、脱がせ着せができないですから。

               

              そういうわけで、これはあの、新人の納棺師の方が良く戸惑ってしまう場面なんですけれどもね。布団をめくってみたら、腕が凍ってる。ちょっとやそっとじゃない。ガチガチなんだ。こういう場合どうするかということです。

               

              普通に考えたら、お湯なりドライヤーなりで温めて解かしたら良いだろうってことになりますよね。でもコレだめなんだな。骨の芯の方まで凍りついてますからねぇ、そんなことやっていたら時間が掛かりすぎてしまう。

               

              それならどうするかというと、実は大事なのは”力”なんですよ。例えばヒジの関節。これ結構ガチガチに凍っていたとしてもね、ヒジの関節の曲がる方向を見定めて、上半身の全体重を掛けてぐぅっ!と押すわけです。そうするとちょっとずつ動いてくる。

               

              動きはじめたらもう大丈夫なようなもんです。後はこう何度も同じ角度で曲げ伸ばしをしてあげたら、自然と関節の凍結は解けてしまう。

               

              ただコレねぇ、要するにテコの原理で関節に力を加えていくんですけれど、肩とか握り手の部分とか、皮膚に相当、負担が掛かるんだなぁ。ちょっと怖いですよね。だから必ず、タオルやなんかでもって厳重に当てをして、そういう部分を保護しなきゃいけないんです。それ忘れたら大変なことになりますよ。

               

              後は指かなぁ・・・凍ってると本当に難しい。コツがあるとしたら、指ではなく手のひらの筋肉を開いていくことかな。具体的には親指の付け根ですね。ここが縮まっていたら、手のひらは綺麗に開かない。硬直解くときなんかもそうなんですがね。そのほかの指の付け根は関節が割れやすいから、あんまり負担を掛けない方が良いですねぇ、なるべく親指と小指、この間の距離を少しずつ広げていくような感じかなぁ。

               

              そういうわけで今日は、ちょっと趣旨を変えて納棺実務、凍結の解き方のお話しでした。ご興味の無い方には、とんだお目汚しだったかもしれないですね・・・。

               

               

               

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              2018.08.01 Wednesday

              The course of truth never did run smooth.

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                方向性ってものが必要だ。

                 

                納棺は毎回、現場の状況が全くと言って良いほど違う。マニュアル通りではちゃんとした仕事はとても網羅しきれない。だからいつもその場その場での配慮が必要で、配慮するためには、意味と、目的と、その方向性ってものが必要なのだ。

                 

                現場でどちらを向き、何を成すか。そこに正解はない。ある意味納棺師ごとに違い、だから納棺師の仕事には個性やその人の考え方が否応なく表れてくる。

                 

                私は心理的なケアを優先する。ご遺体というよりいつもご家族の方を向いて仕事をしてきた。Detox(毒抜き)とIntake(取り込み)。むごたらしい病苦の泥沼の中に沈んでいるご遺体をそこから引き上げ、安らかなお姿を取り戻して、ご家族の前にお帰りいただくこと。汚れは我々が払いのける、ご家族には「死」という対象喪失の現実を受け入れる大切な仕事があるから、そちらに専念していただく。

                 

                これは私なりの考え、一例。正しいかどうかはわからない。しかしその信念に則って進んできた。現場では様々なことが起こり、その中で必ず迷う。だから方向性ってものが必要だ。

                 

                そしてその同じ信念の延長線上に、カウンセリングという今のこの仕事をやらねばという想いが、ある。

                 

                 

                記事のタイトルはシェイクスピアから少しもじって。”真剣だからこそ、難しいのだ”。

                 

                 

                 

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                2018.07.28 Saturday

                アゴが上がらないんです

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                  アゴ上げの。 ( その  その )

                   

                  唇の閉じ方について。ポイントが2つ。

                   

                  先ず、唇が歯の高さまでそろっているかどうか。入れ歯を外しているとか前歯が無い時には、綿で土台を作ってしっかりと本来の歯の高さまで上下の唇を持ちあげておく。

                   

                  唇は高性能な器官で、開くのにも閉じるのにも、ちょうど良い位置・形態で作られている。だからちょっとでもバランスが崩れると大変だ。口内に支えがなく、唇がだらりと余っていればいるほど閉じやすいような錯覚に陥るが、違う。

                   

                  その人の本来の口の形を信じて、しっかりと綿を詰め、底上げすること。そこが唇の閉じやすい位置だ。

                   

                  ふたつめ。唇が乾いていないかどうか。ご遺体は乾燥が早い。相対的に、表皮より粘膜の方が乾燥が早いように感じる。唇などもあっという間にカサカサになってしまう。

                   

                  生きている私たちがぴったりと唇を閉じることができるのも、内側の粘膜が湿った状態にあるからだ。ちょうど、コンニャクを天井か何かに貼り付けるようなもので、湿っていて柔軟性があればある程度吸着するのだ。

                   

                  リップクリームを塗っても良いし、白色ワセリンなども効果があり使いやすい。だが、水だけではすぐにまた乾いてしまう。保湿した後はかなり唇がテカるので、パウダーファンデーションなどで質感を整えるのも忘れないよう。

                   

                  さてここまでは一般的な対応。

                   

                  この先は非一般的な対応。

                   

                  どうしても口が閉じづらい時には、アロンアルファなどの瞬間接着剤を使う。迷わないこと。何故なら、ピンセットで唇を引張り、中途半端な薬剤を塗布すればするほど、ご遺体の唇を傷付けてしまうから。

                   

                  もちろん、こうした薬剤を人体に使うことには抵抗があるだろう。ご家族ならなおさらで、だからこそ丁寧に説明し不安を取り除かなければならない。状況をご説明する場合や、後から質問をされた場合には隠さずお伝えし、実際に自分の手の甲に接着剤を塗布するなどして、簡単に剥がせる旨を実演すると良い。

                   

                  接着剤の使い方だが、閉じた唇の上から塗るようなことはやめたい。それでは一目瞭然だ。塗るのは、唇の裏側。歯に直接付くと滑って剥がれてしまうので、綿を薄く広げておく。綿を挟んで唇の裏側と、歯の表面をくっつける。足りるようなら下唇だけで良い。上唇をそこへかぶせ、表面はあくまで自然に。

                   

                  接着剤を使う使わないの判断は多少難しい。ご家族の考えもある。最近はお見送りの装束なども派手な儀式衣装ではなく、よりナチュラルなものが好まれる傾向があると思う。唇が開いていて、前歯が見えていても、それはそれで自然で良いじゃないかという方も少なくないから、確認は必要だ。

                   

                  ご遺族の心情。場合によっては、複雑な技術より、簡単な専門用具の使用の方が好まれる場合もある。

                   

                  アゴバンドはその代表で、誰でも簡単に使うことができ、口を閉じる効果は非常に高い。大抵死後処置セットの中に入っていて、病院や葬儀社なら常に用意してあるだろう。

                   

                  問題は見た目の悪さとご遺体へのダメージ。アゴバンドは構造上どうしてもアゴの両側の皮膚を痛め、変色させてしまい、加えて部分的に重度のむくみを引き起こす。バンドを外したあともそのむくみは中々取れず、痛々しい感じはする。

                   

                  この問題をかなり効果的に改善しているのが、チンカラーと呼ばれるプラスチックの専用具だ。シンプルな構造で、やはり誰でも、いとも簡単に使える。ご遺体へのダメージはあるにはあるが、アゴバンドほどではない。見た目もかなり目立たない。が、口を閉じる力はアゴバンドには負けるかもしれない。

                   

                  個人的には、病院や葬儀社にはアゴバンドよりチンカラーの常備をお奨めしたい。亡くなられた方の顔貌には、その人の尊厳が宿っている。それを傷付けてしまうような方法は可能な限り避けたいものだ。

                   

                  さて、アゴ上げの技術的な話はここまで。最後に小話をひとつ。

                   

                  あるご家庭での業務、亡くなったおじいさんのお顔を拝見すると、顔の周囲にぐるり、見るからに鮮やかな真っ赤なタオルが巻かれており、頭のてっぺんで野菜のヘタみたいにひねり上げられている。

                   

                  ぎょっとして聞いてみると、ご家族が口を閉じるためにやったものらしい。「ひょうきんな人だからこれで良いのよ」とご家族は笑って、「ね、お父さん」と故人にお声をかけられていた。

                   

                  ・・・ああ、そういうのも確かに、実に良い、ではないか。

                   

                   

                   

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                  JUGEMテーマ:葬儀

                  2018.07.27 Friday

                  アゴが上がらないんです

                  0

                     

                    アゴ上げその◆ ( その,呂海舛 )

                     

                    ※骨や筋肉の名前が色々出てくるので、ご興味のある方は別枠で画像検索などしながら読むとわかりやすいです。

                     

                     

                    詰め綿のこと。これについてはどうしても経験とカンが頼りにはなるが、それだけ言っていてもはじまらない。

                     

                    ご納棺の業務にしてもカウンセリングにしてもそうだが、相手は人間だから常に状況は異なり、混沌としている。「こうしよう」と思っていたとおり進むことは少ない。

                     

                    だからこそ大事なのはフレームワーク、枠組み、理論だ。理論が無秩序に形を与え、それを可視化し、導いていく。理論は正解ではなく、型枠だ。無秩序な状況がそこへ流れ込み、決められた形をまとうことではじめて、私たちはそれを取り扱うことができる。

                     

                    詰め綿を置く位置の部位は何と言うか。そう聞かれて「左右と真ん中の奥の方」というような曖昧なところで終わらせないようにしたい。

                     

                    左右の綿は、舌と歯の間に差し込む。八重歯と奥歯の中間地点。顎二腹筋という筋肉が前腹と後腹に分かれて走っているが、そのちょうど間。顎舌骨筋という幅広い筋肉が口内の言わば「床」を形成している。これを内側から押し広げ、下アゴを引き下げようとする力を奪う。

                     

                    同時に、詰め綿がちょうど舌骨と下顎骨の間に挟まれ詰め物の役割をすることで、下アゴが上がる。

                     

                    真ん中の綿は、舌の根、舌根の裏側にある「喉頭蓋谷」という部分に収める。この綿は舌骨を前に押し出す働きをする。左右の綿はどうしても舌骨を背中側に押し沈めてしまうが、するとまた下アゴが背中側に引っ張られて、口が開いてしまう。

                     

                    左右の綿と喉の奥の綿を両方詰めることで、舌骨が前後から圧迫され、固定される。

                     

                    骨と関節の位置を調節すると同時に、力を失って緩んだ筋肉を綿の弾力で支え、空間を埋めていく。これがメカニズムの全体だ。

                     

                    諸注意が二つ。

                     

                    年配の方で特に皮膚の薄い方については、左右の綿を差し込んだ時に、ブドウの房状のリンパ節(顎下腺)がくっきりと浮き出てしまうことがある。見た目にショックが大きくご家族を動揺させるため、左右の綿を減らして真ん中の綿を増やすとかして対策をしたい。

                     

                    ふたつめ。中央の綿を収める喉頭蓋谷というのは、喉頭蓋という喉のパーツの上部分にあたるが、この喉頭蓋は筋肉によって制御されている軟骨のプレートであり、筋肉が弱って嚥下障害を起こしている方などは、プレートが倒れて喉頭蓋谷が見当たらなかったりすることがある。その場合はいつにもまして綿を多く詰め、喉頭全体を埋めて支えにしなければならない。

                     

                    詰め綿の概説はこんなところで、誰に需要があるのかもわからないアゴ上げの話題は次回で最後にしよう。そのでは唇のあわせ方と、おまけとしてアゴバンドなどその他の補助部材について解説したい。

                     

                    その

                     

                     

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                    JUGEMテーマ:葬儀

                    2018.07.26 Thursday

                    アゴが上がらないんです

                    0

                       

                      たぶん、私が使うことはもうないであろう、ご納棺の知識。

                       

                      磨き上げたものをこのまま朽ち果てさせるのもなんだかということで、後の人のために、この場を借りて少しずつ記していこうと思う。

                       

                      先ずは納棺師の永遠のテーマ、アゴ上げ。

                       

                      そう、アゴが、上がらないんです・・・。

                       

                      つまり下顎が下がったままで唇が閉じないということ。

                       

                      口が開いたままというのは良くないことだ。人間は本能的にそう感じる。生気が出ていくからだとか、臭いがするからだとか、虫やホコリが入ってはかわいそうだとか色々理由はあるが、とにかく基本的に、唇はしっかりと閉じなければならない。

                       

                      しかし現場でやってみると、アゴが上がらないご遺体の多いこと。何とか口を閉じようとして納棺師は苦戦する。

                       

                      そういうとき、気を付けるべき点がいくつか。

                       

                      ‘がのけぞっていないか

                       

                      ⊆鷦りの筋肉が硬直していないか

                       

                      アゴが外れていないか

                       

                      納棺師であれば是非とも人体の構造には詳しくなってほしいものだが(実際はカンだけでやっている人も多いのでは?)、下アゴの筋肉は舌骨という小さなU字型の骨を挟んで首側の筋肉に繋がっている。

                       

                      私たちも真上を見上げると口がぽかんと開きやすくなるが、これは首側の筋肉が張り詰めて舌骨を引き下げ、舌骨が下がるから同時にそこに繋がっている下アゴも胸側へ引っ張られる、という仕組みだ。

                       

                      ,皚△癲△海寮綛下筋群のテンションに関連している。

                       

                      介護や入院の生活の中では、舌の筋肉が弱り、舌全体が沈みこんで気道を塞ぎやすくなった(舌根沈下という)方の対応のために、首元に枕などを挟んで常に頭をのけぞらせた姿勢にすることがある。この姿勢が長くなれば、相応に関節の硬化なども起こるので、丁寧に拘縮と硬直を解くマッサージを施さねばならない。

                       

                      はこれとは違い、筋肉ではなく関節の問題。ご遺体に限らず、アゴが外れやすい方はいるものだ。戻し方も検索すれば沢山出てくる。問題は判別くらいだろう。首の硬直を解いて、お頭を持ち上げうつむき気味にしてみてもアゴが下がっており、閉じようとするとガツンと抵抗がある。もっと見分けやすい場合は、下アゴだけ極端に前に出ているとか、普通では考えられないくらいに口が開いていたりする。

                       

                      まとめると・・・

                       

                      下アゴは、ちゃんと顎関節がかかってさえいれば、のけぞればのけぞるほど開く。うつむけばうつむくほど閉じる。だから首の筋肉の硬直をちゃんととること。

                       

                      次回はアゴ上げ後半ということで、詰め綿の入れ方などについても書いておきたい。

                       

                      その

                       

                       

                       

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