不誠実な優しさ
今日は縁あって、他の方に「らくだと馬」のたとえ話をしました。
昔から良くする話で、私の”刮目”の思想とも相通じて影響を受けているところがあります。
この話は、ベストセラーになったパウロ・コエーリョの小説『アルケミスト』の一節から。
明日、おまえのらくだを売って、馬を買いなさい。らくだは裏切る動物だ。彼らは何千歩も歩いても疲れを見せない。そして突然ひざまずくと、死んでしまう。しかし、馬は少しずつ疲れていく。だからおまえはいつも、どれだけ歩かせてよいか、いつ馬が死ぬ時かわかるのだ。
中々感慨深いお話し。死ぬまで素直に従ってくれるらくだより、疲れたら勝手に休みはじめる不誠実な馬の方が、実はありがたいパートナーだということ。
砂漠の真ん中で足が折れてしまったらくだは、乗っている人をその場に突然置き去りにする。それは残酷で、悲しいことです。
人生経験のある地点で、私は似たようなことを人をから教わりました。暗闇の中でさ迷う人を助けられるのは、暗闇の外に居る人だけだと。
また、ある精神疾患者についての話として、彼はどうしても時間の約束を守れず色々な人に迷惑を掛けてしまう。それを知ったカウンセラーは、患者がカウンセリングの時間に遅れてきたときに必死に乞われても頑として譲らず、その日のカウンセリングを受けさせなかった。
結局後になってその患者は、カウンセラーに感謝してこう言う。『私の周囲の時計はみな狂ってしまって私を混乱させた。ただあなた一人だけが、私にとって正確な時計だった。』(この話は確かH・スィーガル『メラニー・クライン入門』の中にあったと思う。)
人生のかなり早い段階で、私は、人を救いたければ残酷さが必要なのだということを悟ったのでした。
目の前で人が血を吐いていても、その人の片腕が取れていても、1ミリも眉を動かさずに見ていられる冷酷さ。例え心にナイフを突き立てられても、気にせずあくびをしていられる無関心さ。
そんな残酷さを自分に望んで、そんな風に無関心な人間になったことが果たして良かったかどうか。
それはもう、一長一短としか言いようがないのですが。少なくとも己の宿命ではあったのでしょう。
優しさなどというのは、まったく掴みどころのないものです。
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