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2019.02.18 Monday

納棺師の日誌

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    納棺の実務については、もう書くようなことはあまり残っていない。

     

    働く業界も変わったし、半年という空白期間は、職人の腕を腐らせるのに多分十分な時間だ。

     

    人体の構造や死体現象についてはいくらか書いてきたけれど、もしも私がまだ、新人の納棺師のために何かの学習成果を残しておくとしたら、後はざっくりと次のようなことを伝えておきたい。

     

    現場でご遺族への配慮をしたり、細かな所までできるだけのサービスをして差し上げたければ、それ専用にノートの一冊でも作るべきだ。

     

    ご葬儀、ご家族の状況は千差万別で、曖昧な敬語や忌み言葉、語感の悪い言葉(例えば”どうせ”とか”その方が楽”とか)を言っても心情を傷付けるし、何だかんだ、やりたいことやるべきことはあれど、気後れしてやらずじまい言わずじまいということも多い。

     

    お怒りを買ったり、悲しみを深めたりするよりは黙って何もしない方が良いのだけれど、それをずっと繰り返しているのも無力感ばかりが募る。

     

    はじめての場面、はじめての風習、はじめての質問に上手く答えられないのは良い。

     

    けれど後になって、その日の終わりぐらいには簡単に、ネットで調べ物をしたり本を読んだりして根拠をはっきりさせ、『次からはこう対応しよう』『こんな言い回しを使おう』ということを一つずつ書きためておきたい。

     

    (妙な話だけれど、私はこの習慣を飲食業界で店舗運営をしている時に身に付けた。難しい注文をどうやって断ればもっと印象良かったか、とか。顧客側が手探りでサービスを利用する葬祭業界では、知識と安心感と信頼が一貫して関係するので、この習慣はより多く役に立ってくれた。キャリアというのは不思議な繋がり方をするものだ。)

     

    ご遺体の状態が思わしくないのをどうお伝えするか。ご葬家内でいさかいがある時の立ち回りは。あまり表だって信仰されていないご宗派ご宗旨に出会ったときどうするか。棺に食べ物を収めたいと言われたら? 仮にそれが生前に好まれていたスープなどだったら? 逆さ屏風とは何かを聞かれたら。外国生まれのイスラム教徒が日本で亡くなった場合は、など。

     

    どれも細かく、知識は広範煩雑で、試行錯誤も空しく現場では上手くいかないことの方が多いかもしれない。だとしても「そこまでは私の仕事じゃない」と言って割り切ってしまったら、本当に、それはそれで職人としての技術はそこで頭打ちになってしまうのではないかという気がする。

     

    地味な、しみじみとした仕事。現場を振り返って、ノートを取って、反省点と改善点を書きためる。それもまた納棺という業の、ひとつの陰の姿であると思う。

     

     

     

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