死が怖いときには
死が怖いのなら、死と一緒にいることです。それがまず全ての始まりではないでしょうか。
私が納棺師の仕事をしていた頃、辛かったのはご遺体の腐敗や損傷を目にしたりそれに触れたりすること、ではありませんでした。
本当に怖いのは、死を忘れられなくなることです。
普通私たちは、例えばお葬式に出て誰かの死を悲しんでも、葬儀が終わって一日二日、繰り返し睡眠を取るたびに「死」というものの存在を頭の中から追い出していきます。
死を忘れてしまうということ。それがある意味、生物として健全なこと、でもあります。
また別の見方をすれば、永遠に生きられるような感覚で消費をしたり働いたりするのは、私たちの社会の、良くない習慣だ、とも言えるでしょう。
ですがもし、忘れられなくなったとしたら? 死に携わる仕事、重い病気での入院、そして、歳を重ねること。
あぁ、自分もいつか死ぬなぁ、という実感が頭から離れなくなってくる。そういうことだって、生きていれば十分あり得るわけです。
その時に、それはそれで、死について悩んだり考えたりすべきだと私は思うのです。「自分は死なないぞ」とそこから目を背けて、心の中に不安を隠したままにするのも、あまり健康とは言えないのではないでしょうか。
良寛(りょうかん)さんという有名なお坊さんがいらっしゃって、こういう言葉を残されました。
『災難に逢う時節には災難に逢うがよく候。
死ぬる時節には死ぬがよく候。
これはこれ災難をのがるる妙法にて候。』
『災難にあったときは、しっかり災難に向き合うと良い。
死んでしまうときには、しっかりと死んでみることだ。
これこそ難を逃れる秘訣だよ。』(現代語意訳)
逃げよう逃げようとすると、かえって苦しくなることもあるものです。生あるものである以上、死もまた私たちの一部。受け入れて、生ききって、自分の全てを味わい尽くすこと。
そんな風に考えてみるのも、ひとつ、悪くないのではないかと思います。
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